第二話 頑張るということ「頑張るってね、どこまでいけばそれは本当に頑張ってることになるの?」コトリが、ふとクマに話しかけました。 今日は、とても綺麗な満月。 二人がこの川辺で、こうやって夜空を見上げながら話しをするのは何度目でしょう。 森は、旅立った動物たちの数だけ閑散と、日に日に静かな夜が深まっていました。 「頑張る?」 「うん。自分でね、頑張ってるつもりになっても、いつでもまだまだだなぁって思うの」 「コトリさんは、頑張ってるんじゃない?いつも、周りのみんなのために歌ったり笑顔でいたり。」 「うん。でも、それってね、別に自分が楽しいことをしてるだけで・・・。クマさんみたいに動き回って、頑張ってるって訳じぁないし。 なんとなくね、自分の取り柄は元気で笑ってることだけだから、それくらいしか私が出来ることなんてないしさ。 何よりそれは、自分のためにしていることで・・・。 それって、なんだかどこまでいっても甘いような気がするの。」 「頑張るってことを、自分で納得することか・・・。 難しいことだね。」 「うん・・・。 周りのみんなはね、頑張ってるって言ってくれる人もいる。 でもね、きっと、私の中での頑張るってことの意味と、みんなの頑張るって意味がなんとなく違っていたりすると・・・ 一生懸命元気づけてくれていても、どこか自分の中で受け止められないの。」 「コトリさんは、自分に厳しく思い過ぎてしまうのかもしれないね。 でも、甘えてしまいたくないって気持ちは、よくわかるよ。」 「うん。甘えってね、甘えでしか受け止められないものだから。 それは優しさじゃなくて、いい加減さとか、諦めとか・・・。 そういうふうには生きたくないって、すごくすごく思ってしまうの・・・。 だから、自分の中に甘えを見つけると、悲しくなる。」 「そうかぁ。 コトリさんは真面目だね。」 「えへへ。 あんまりそんなふうに見られないけどね。 真面目なのかなぁ。」 「うん。真面目だよ。 それに一生懸命だ。」 「・・・。」 「どうしたの?泣いてる?」 「うん・・・。 ごめんね。 急に・・・ 自分でもわからない・・・。 クマさんには、なんだかわかって貰えてる気がしたの。 ずっと、伝えられなかった気持ち・・・。 言葉にしたら、きっと壊れてしまうような・・・ 私のなかで、一番大事にしてる・・・ 一番私らしい気持ち。 本当に伝えたい気持ちや、わかって欲しい気持ちって、 言葉には出来ないものなのかもしれないね・・・。」 「そうかぁ・・・。 うん。 わかるよ。 わかって欲しくて、伝えよう伝えようとすればするほど、辛くなることってあるものね。」 「そう・・・。 なんだか、私はいつの間にか、この気持ちを誰かに伝えることさえ、諦めていた気がする。 投げやりな気持ちとかじゃなくて。 ただ、自分が守らなければならない、最後の砦っていうのかなぁ。 だから、自分の中だけで大事にしてた・・・。 でも・・・ なんだか、今一瞬ね、クマさんにはわかって貰えているんだって思えたの。 ホントに、なんていうのかなぁ。 自分の中で、誰も入れなかった心の中に、クマさんの心がすぅーっと入ってきて、 撫でてくれたような・・・。 ありがとう・・・」 「そんな、コトリさん、泣かないでよ!」 あたふたするクマの頭の上で、今日の満月はことのほか煌めいているようでした。 |